不動産取引では、最新の注意を払いながら進めても、思いもよらないトラブルが起こりえます。
知っていれば未然に防ぐことができるものもありますので、ここでご紹介していきます。
例えばお父様がお亡くなりになられた場合、お父様が所有していた財産は奥様やお子様などの相続人に引き継がれていきます。
不動産については、誰が相続したのかを法務局に登録する必要があります。
いつ、誰が、どんな理由で所有することになったのかを記録するのが不動産登記になります。
現在、その相続による登記が行われずに放置されているケースが沢山あり、大きな問題となっています。
しっかりと管理がなされず、荒れ果てて近隣に迷惑をかけたとしても、誰の持ち物が分からず対処することができないからです。
所有者不明の土地は全国で約410万ヘクタールあり、九州全土の面積を上回ると言われています。
その対策として2024年4月より相続時が事務化され、相続を知った日から3年以内に登記を完了しないと罰則の対象となることが決まりました。
相続登記の義務化については別の機会に詳細を掲載しますので、ここからは、実際にあったトラブル事例をご紹介します。
相続未登記によるトラブル事例
売主様である現所有者は、約90歳の女性。ご主人は数年前に他界され、土地と建物を引き継いで住まわれていましたが、相続登記がなされていませんでした。
高齢で心配との理由で、一人息子の長男が新築されたお家で同居することになり、今のお住まいを売却することになりました。
幸いに購入希望者はすぐに見つかり、売買契約を取り交わしました。
相続登記が未了の場合の売買契約は注意が必要です。相続の権利を持った人を明らかにし、全員が売却に同意していなければなりません。
本来は相続登記を終えてから売買契約を結ぶのが理想です。
お引渡しまでのスケジュール等、何らかの事情で契約を先に結びたい場合、相続人全員の同意を確認するため、遺産分割協議書を提示していただくことで契約を進めることもあります。
今回のケースでは、遺産分割協議書は作成されていませんでした。
①相続人は奥様と長男の2名であると、高齢の本人だけでなく長男も名言されていた。
②相続発生後から何年間経過しているが、財産分与についてのトラブルはおこっていない。
③買主様の都合で契約を急がなければならない状況にある。
④売買金額が少額である。
という点から総合的に判断し、リスクはあるものの契約へと進みました。
お引渡しの準備のため司法書士に依頼して相続登記を進めてもらうと、亡くなられたご主人には離婚歴があり、なんと前妻との間に二人の娘がいることが発覚したのです。前妻はすでに他界されていましたが、お二人の娘さんは健在でした。
このような場合、その二人にも長男と同じ割合の相続権が発生します。
お取引を完了するためには、
①前妻の娘から売却への同意を得ること
②売買代金の分与の仕方に同意を得ること
③種々の書類への署名捺印や住民票・印鑑証明書の取得への協力してもらうこと
などが必要となります。
離婚した前妻の娘さんというデリケートな関係性の中で、上記の項目をクリアしなくてはなりません。
場合によってはネガティブな感情がぶつかり、暗礁に乗り上げることも十分にあり得ます。
【今回のケースの結果】
幸いにも今回のケースでは、前妻との間のお二人に売買代金より法定相続分をお渡しする条件で、同意をいただくことができました。
もし同意を得られない場合は違約解除となり、違約金を支払うことになっていました。
買主様も購入や引越しに向けて様々な準備をしてこられているので、違約金を受け取れたからといってご納得されるとは限りません。場合によっては大きな問題に発展していたかもしれません。
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他にも相続人が存在していたことを知らなかったことは致し方ないとして、相続時に相続登記を行っていれば、その時点で気づくことができたのです。
想定外なことが起こっても、契約前であれば大きな問題にはなりませんが、契約後だと多額の費用が発生したり、裁判に発展することも実際にあり得ます。
・2024年の義務化を待たず、もれなく相続登記を行いましょう。
・相続対象者を正しく把握し、遺産分割協議書を作成しましょう。
・懸念点は契約前に解決しましょう。
今後も安心して不動産売買が行えるよう事例をご紹介してまいります。
売主様には売却に関する基礎知識を身に付けていただきたいと考えておりますので、こちらのホームページも参考にご覧ください。